伊能忠敬が高知を測量した4年前、同じ精度レベルの実測地図が既に製作されていた!
作成した人物は久米通賢(くめ みちたか:栄左衛門{1780-1841})『坂出塩田の父』として知られており、天文・測量分野では知名度の低い人物だが、使用した測量機器・地平儀が忠敬使用のものより精度の高いものであったことが昨年判明し、再評価する機運が高まっていた。しかし、それらの測量機器により作成された肝心の地図が90年前から行方不明で、その発見が切望されていた。
それがこのほど、鎌田共済会郷土博物館で下図が発見され、研究者や地図に興味を持つ人々の間で話題を呼び、地元のシコク新聞でも非常に大きく取り上げられた。
通賢は19歳から大阪で数学、天文・地理・測量学を学び、帰省後1806年には高松藩から測量を命ぜられ、独自で測量器具を開発した。測量で使用したと思われる通賢の地平儀(目標とする地点の方位角を測量し、三角法で距離を算出する器具)は当時欧州で最新技術であったバーニア(副尺)を採用しており、それより古い「対角斜線副尺」を用いたき具を仕様ていた忠敬の五分(一度の十二分の一)に対し、通賢は二分(同三十分の一)まで計測できる。すなわち忠敬のそれと比べると、精度が約2倍よくなるものであった。しかし日本でのバーニア本格導入は幕末までないため「通賢はバーニアの原理を理解し独自の工夫で測量に応用した日本最初の人」(国立天文台 中村 士氏 談)と評価が高い。
「バーニア(副尺)」<vernier>
フランスの数学者で「副尺」を発明した人物の名前をとって「副尺」を「バーニア」と呼ぶ。副尺とは「長さ、角度などの本尺の目盛端数を正確に知るための補助尺」の意。ノギスに使われている最小単位のメモリである。
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ではどちらの地図が正確なのかが気になるところではあるが、まだ現段階では調査が不十分であるという。ただ、次頁の写真の高松周辺をぱっと比べると同じくらい正確で、久米図が伊能図に決して引けを取っていないことが判る。
通賢は、測量に関してよりもむしろ坂出(香川県)の塩田開発で名を残している。また他にも扇風機や時計、ポンプなどさまざまな生活・産業用具を考案している。そのマルチな才能は、天文と測量に一途な忠敬とはある意味相反すると言えるかもしれない。
この下図は非常に劣化が激しいため現在補修作業と調査が進められているが、急遽、香川県歴史博物館にて開催の「特別展 久米栄左衛門〜創造と開発の生涯〜」で11月24日まで展示されるとのこと。詳しくは同館へお問い合わせ願いたい。
また、鎌田共済会郷土博物館では、通賢研究の第一人者である沢田平氏が復元した測量器具なども展示している。興味のある人は是非足を運びたいところである。
<鎌田共済会 郷土博物館>
■TEL:0877-46-2275
■開館時間:9:30〜16:30(日曜は10:00〜13:00)
■休館日:月曜日・祝日
■入館料:無料
<香川県歴史博物館>
■TEL:087-822-0002
■開館時間:9:30〜17:00(金曜日は19:30まで)
■休館日:毎週月曜日・12月29日〜1月3日
■HP:http://www.kagawaken-100anniv.or.jp
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(土地家屋調査士2002・11月号No550より)