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AGC トピック

緯度と経度、世界基準に     

      日本列島が400メートル以上動く?

日本で地図づくりの物差しになってきた日本測地系を2000年から、世界共通の世界測地系に改めるための準備が、建設省国土地理院の手で進められている。世界測地系では、日本各地の緯度や経度が現在に比べ北と西にそれぞれ11秒前後ずれる。このため国土地理院発行の地図や地方自治体で作る都市計画図、コンピューターにさまざまな地理情報を入れる地理情報システム(GIS)などは手直しが必要になる。

来年から宇宙測地で座標修正

明治以来、日本の地図作りになってきたのは、東京都港区麻布台2丁目にある経緯度原点。天文観測によって東経139度44分40秒、北緯35度39分17秒と決め、地球を一定の楕円体(赤道方向の半径6377.397キロ、北極方向の半径6356.078キロなど)と定めて、あとは距離と方向を測る三角測量によって、各地点の経度、緯度を計算していた。これが、日本測地系だ。

当時はこの方法が世界の標準だったが、各国がばらばらに経緯度原点や楕円体を決めていたため、つくった国によって地図の経緯度が違っていた。

また、1950年代から登場した人工衛星の軌道データを詳しく解析すると、地球は当時推定されたよりも半径が700メートル前後長く、しかも、より平べったい形である事がわかってきた。日本の天文観測のもとになった鉛直線も、日本列島の地殻構造の影響で、地球の重心(中心)を通らず、南東に約12秒傾いていることもわかった。

こうした宇宙測地技術を取り入れ、地図づくりの物差しを世界共通のものにするために考え出されたのが世界測地系だ。これまでと違って、座標の原点を地球の中心におく。地球の形は、最新データでわかった楕円体とし、それぞれの地点の緯度、経度は人工衛星の電波を使った全地球測位システム(GPS)などで決める。

1980年代に入ってから、世界測地系に切りかえる国が現れ、米国、カナダ、スウエーデン、ノルウエー、インドネシアなどが採用済みだ。国際民間航空機関(ICAO)や国際水路機関(IHO)の勧告に従い、日本でも、海図や空港などの位置には一足先に新しい座標系が使われている。

世界測地系に切りかえるため国土地理院では、茨城県鹿嶋市で宇宙測地技術を使って新しい経度、緯度を決め、これをもとに今年中に全国に約10万点ある三角点の経緯度を決めなおす作業を進めている。

これによって、明治以来の地殻変動によって起った日本列島のひずみや測量誤差も同時に修正される。これまでの計算によると、新しい経線は7秒(那覇)から14秒(北海道・稚内)東に移動、緯線は8秒(稚内)〜14秒(那覇)南に移動する。関東地方では経線、緯線とも東と南にそれぞれ12秒ずれる。距離にすると稚内では約400メートル、東京では約450メートル、福岡では約420メートルそれぞれほぼ南東方向にずれる。

国土地理院は当初、今年の通常国会に測量法の改正案を提案するつもりだったが、国会の審議日程の関係で今回は見送り、来年の通常国会に提案する予定。成立すれば、来年秋から、世界測地系に移行したいとしている。

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 世界測地系に移行すると、最も大きな影響を受けるのは地図だ。国土地理院発行の地図は、当面はこれまでの図面に新しい経緯度の目盛を付け加えてやりくりするが、順次新しい地図に書き換えて行くという。都市計画図の修正も必要になるため、全国各地で自治体関係者などを対象に説明会を開いている

 地理情報システムも経緯度をもとにデータを入力しているため、修正が必要になる。一方、全地球測位システムの観測装置は、世界測地系が使われているため、現在は日本測地系に切り替える必要があるが、これが不要になるという。

「へそにも悩み」

 また「東経135度」などの各地の経度、緯度を刻んだ碑なども微妙な立場にある。東経135度、北緯35度の経線、緯線が交差する兵庫県西脇市では、世界測地系で測った「日本のへそ」モニュメントを94年に新設した。大正時代につくられた日本測地系での「日本のへそ」の碑と二つが共存する。

 昨年春、約一千万円をかけてモニュメントを建てた兵庫県東浦町では「東経135度線が町を通る事に変わりない。東経135度国内最南端の町を売り物にしているので、ミニュメントの移転などは考えていない」と話している。
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1999/3/15 朝日新聞夕刊より

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