AGC  TOPICS  37

国有林地図情報のインターネット公開

富永 滋

 最近(2021年頃から)、林野庁の方針により国有林の地図情報がインターネットで公開されるようになった。対象となったのは、2万分の1施行実施計画図と5000分の1森林計画図・基本図である。従来は、情報公開制度により請求を行うか、計画の更新に伴う縦覧期間内に所轄の森林管理局へ出向くなど、限られた方法でしか閲覧できなかった。施行実施計画図を森林管理局から直接購入することも可能であったが、図面のサイズに応じて一枚ごとに異なるが一枚あたり二、三千円程度の費用が必要だった。これを思うと大きな前進である。

 情報公開の動きは地域により大きく差がついている。公開に非常に消極的な東京都は、例えば水源林情報の閲覧を数年前から関連技事業者に限定した登録制にするなどむしろ後退したのと対照的に、例えば群馬県は県が管轄する民有林の基本図をかなり以前から「マッピングぐんま」で公開している。森林情報の公開に関してはどういう訳か、静岡、滋賀、福島など積極的な県と、埼玉、山梨、長野など消極的な県とがあり、温度差が激しい。しかし全体としは次第に公開が広がりつつあることから、今回の国有林の公開の動きにより影響が生じるかも知れない。

 地図情報の中でも、森林計画図・基本図は5000分の1と大縮尺である。なぜ5000分の1が有用であるかというと、遡行や荒廃した歩道の通行など、詳細な地形の把握が必要な場合、この程度の縮尺でないと記載されない小窪や小尾根を把握できないからである。全国規模で公開されている同程度の大縮尺地図情報としては、すでに基盤地図情報(5mメッシュ(標高))が知られている。地理空間情報活用推進基本法に基づき国土地理院が整備を進めるものだが、航空レーザ測量による精密地形情報に関しては、自然災害への対応も念頭に置いて山間部を含みつつ、国土を網羅する形で進められている。関東近辺では、山岳地帯を含めても目分量で95%以上が整備済となっている。しかし基盤地図情報は行政機関や専門家の利用が想定されているため、自由に利用はできるが、地形を表示するには最低限コンピュータとソフトウェアが必要であり、道路、家屋、河川、地名などを表示するためにはある程度のプログラムに関する知識が必要であった。その点、pdf形式の画像情報として提供される森林計画図・基本図は、モニタ上に表示して印刷することも可能であり、利便性が高いと言える。ただし当然のことだが、対象区域は国有林に限られる。

 施行実施計画図と森林計画図・基本図を登山の参考として見る場合の、利点と注意点について述べる。地図の作製目的は、いうまでもなく登山のためのものではない。施行実施計画図は伐採・植林などの営林事業のため、森林計画図・基本図は土地の管理、すなわち山林の登記用図面を目的としている。利点として、施行実施計画図には小林班ごとの植生の樹種・樹齢が記入されているので、山中での位置確認の際、植林等で樹種が変化する境界に居る時、良い情報となる。積雪や歩道状態の予測にも、樹種は一つの材料になる。さらに事業用の図であるため、比較的新しく作設された林道も、正規の道であれば(作業用に一時に設置した道でなければ)掲載されている。また森林計画図・基本図は大縮尺のため地形の詳細を把握できる。下図は秩父の滝川遡行時の核心部、ブドウ沢出合下の様子を地形図と比べたものである。川の形状、両岸の地形、流入する支窪の様子など、全てが詳細に読み取れる。尾根や山腹に付いた荒廃した歩道を行く場合は、微小な尾根地形や小ピークも認識することができる。

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荒川水系 滝川ブドウ沢出合付近

カラー図(国土地理院・地理院地図)は遡行時の地形や支窪が不明瞭だが、白黒図(森林計画図・基本図、図幅境界のため一部白紙)は地形が明瞭に分かる。

逆に注意すべき点もある。事業計画や森林管理用の図であるだけに、たまたま営林用歩道を兼ねている場合を除くと登山道の記入がない。記入された山名・川名は営林用の名称であり、これも都合よく同名が使われる場合以外は、一般登山者が使う名称は記入されていない。営林用歩道は一般登山者の技術では通行困難なものや、中には廃道化したものも含まれる。現在の巡視は歩道を使わず空撮で行われることが多く、歩道の状態は大きな関心事ではなくなっているからだ。それでも登山地図や地形図に収載されない、通行可能な歩道の情報が役に立つこともある。歩道に関しては、さらに注意すべきことがある。下図は、豆焼橋~雁坂小屋の黒岩登山道の燧石三角点付近の道の付き方を、地形図、森林計画図・基本図、経営計画図(昭和28年・秩父営林署)で比較したものである。地形図の道の位置が正しいのに対し、森林計画図・基本図では地形図とほぼ同形状の破線が地形を無視してずれた位置に置かれている。恐らくこれは等高線が引かれていなかった古い時代の図面の道の形状を、そのまま機械的に置いたための現象と推測される。このようなケースでは、「ズレ」を認識しその分を割り引いて読めば、案外正しく表示されていたりする。

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地形図(国土地理院・地理院地図)

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森林計画図・基本図

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経営計画図(昭和28年)

国有林の地図情報へは、林野庁の国有林の森林計画図のページから各森林管理署の地図情報ページにリンクが貼られていて利用できる。森林管理署ごとに目的の図の引き方に若干の違いがあるが、まず閲覧希望山域の市町村名から施行実施計画図を引当て、そこに記載された林班番号から閲覧希望山域の図幅番号を特定しリンクを開くようになっている。関東森林管理署の場合はさらにもうひと手間加わり、林班番号と図幅番号を紐付けるのに基本図一覧表を参照するようになっている。

2022.2.26記述